残念、概念、希死観念!

高校の友人が亡くなった。自殺だった。

 

第一に、羨ましいと思ってしまった。何よりも先に、私も早くそうなりたいと思った。

 

もう何年も会っていないのに、高校時代に数回遊んだだけなのに、訃報を耳にしてからずっと考えている。

 

そちらはどうですか。楽になれましたか。

私ももうすぐいきますね。

そうして会えたら、15歳の頃の私たちみたいに、生クリームがたっぷり挟んであるコッペパンを一緒に食べたいな。

 

もう何ヶ月もログインしていないゲームでフレンドになっているアカウントと、バスの中で居眠りしている写真だけが、彼女の忘れ形見だった。

あとのまつり

気温はもうお気に入りのコートが着られるほどなのに、ヘッドフォンから流れる歌はまだ夏の恋をうざったいくらいに暑苦しく叫んでいた。いつも、季節外れな音楽を聞いている気がする。呆れるくらいに天邪鬼な自分にもそこそこ慣れてきた。流行りのアニメは見たくない。ブームが去った頃に一人でハマって誰とも語り合えずに寂しくなるのもそろそろお決まりといっていい。それが自分に似合ってるとさえ思う。みんなタイミングタイミングってそればっかり。いいよ好きが噛み合わなくたって。私の好きだけが輝けばそれでいい。

よくある話

いつも君は僕に急にカメラを向けてきてさ、何かと思えば変なインスタグラムのエフェクトを僕の顔につけて、キャッキャとはしゃいでるんだ。僕はそれにノリよく変顔するような気前のいい奴じゃなくてさ、嫌な顔してカメラから目を背けてたね。もっと構ってやればよかったな。煙草を吸う僕を撮ってはストーリーにあげて、ヤニカスグラムだなんてハイライトを作ってた。もう消えてんのかな。君が友達と行った韓国料理屋でパックもらったからあげるって、僕の部屋に勝手に置いていった、全部ハングルの文字で書かれた効能も分かりゃしないパッケージを眺めてる。使うわけないだろ。キッチンで煙草に火をつけながら、目に入る洗われた二人分の食器が妙に寂しい。君がいなくなってから2週間も経つっていうのに、僕は自炊すらしてないみたいだ。痛いほどに君の痕跡が残る部屋で、コンビニで買った飯を食って煙草を吸って寝るだけだった。風呂に入れば君が買った5個入りのアヒルがアホ面でお出迎えする。失ってから大切さに気づくようなアホ面の僕を嘲笑う。上がったあとに君がくれたパックをつけよう。インスタグラムのエフェクトで、変顔でもしてやろうかな。そう思ったけど、君が使ってた変なエフェクトの名前はひとつも分からなかった。

「なんだ、元気そうじゃん」

高校三年生の秋、鬱の症状が酷くて全く学校に行けなかった私に担任の先生が言ったんだ。私が毎日の辛さに耐えることに精一杯で、眠れない夜にベランダへ足をかけたことがあるだなんて知らないものね。今を生きることしか考えられないのに、落とした単位のことなんか、これからどうしていくのかなんて、私がいちばん知りたかったよ。目の前で泣いてみたらよかったのかな、いつも夜中は涙が止まってくれないの。ヘラヘラせずに辛いって言えばよかったのかな。そしたら分かってくれたかな。先生、私、全然元気なんかじゃなかったよ。ずっと、傷ついたまんまだよ。

顎のニキビ

顎にニキビがひとつできた。触ると痛いしメイクじゃ隠れないし。早く治ってくんないかな。中学生の頃に比べれば、ニキビが出来ることもだいぶ減ったなあなんて考える。そういえばニキビって、出来る場所によってジンクスがあったっけ。おでこに顎に左右の頬。思い思われ振り振られ。顎のニキビは思われニキビだとかなんだとか。そんな迷信ひとつで、うざったくて仕方なかった顎のニキビが愛おしく思える。こうも上手くいかないものかと頭を悩ませるような今の恋愛にはいい薬かもね。金木犀の香りで秋を感じるようなつまらない大人にはなりたくないけど、顎にできたニキビで一喜一憂するような姦しい女ではありたいな。約束の一週間前にやっぱり行けなくなったって断られたあの映画、そろそろ上映期間終わっちゃうから私ひとりで観にいくね。私の顎にわざわざニキビ作るぐらい私のこと好きならさ、早く君のものにしてよ。迷信に縋るくらい、君のこと好きなんだよ。こんなかわいい女、他にいないよ。

稀薄

18時にバイトが終わる日に合わせて、3週間ごとにネイルを変えにいく。39分発の電車に乗って4つ駅を通り過ぎたあと、吐き出されるように電車を降りて、客引きが蔓延る商店街を少し歩く。電話ボックスみたいに狭いエレベーターに身を預け、押せたのか分からないほど感触のない4のボタンが光ればオンボロの箱は動き出す。ドアを引けば頭上に付けられたベルが鳴り、いらっしゃいませの声といつもの笑顔が向けられる。最初にもらったポイントカードはもう半分ほど埋まっているけれど、指名するほど仲良くなれたネイリストさんは一人もいない。初めのうちは空いてる人が担当するせいかコロコロ人が変わっていたし、施術中にテレビで好きな映画が見られることを売りにしているこのお店では、デザインや色の確認以外で話しかけられることはあまりなかった。そのはずなのに、最近はずっと同じ人がついてくれる。腕にタトゥーが入っていて、ちょっとギャルっぽいのに全く高飛車じゃなくて可愛いお姉さん。前回人差し指の爪に亀裂が入ったことを伝えると、本当はダメなんですけどね、って言いながら補強してくれた。3週間経った今回も、結局折れちゃったから全部短く揃えてくださいって言えば、折れちゃいましたか(笑)って控えめに笑う。いつもいつも真っ黒のワンカラーをお願いする私にも律儀に、この中から1色選んでくださいねってカラー表を見せてくれる。本当はお話してみたい。指に入ったレタリングのタトゥーのことも、ちらっと見える腕に入ってるお花のモチーフのタトゥーのことも、施術してくれる手のネイル、いつも可愛いなって思ってることも。目の前のテレビで流れる終わりかけのドラマ。別に見たくないのに、ってちょっと不貞腐れる。これがなかったらもっとお話出来るかな。形大丈夫そうですか?って聞くお姉さんに大丈夫ですって返しながら、仕上げていきますね〜って微笑むお姉さんに、心の奥で癒される。わたし、ずっとこのまま、お姉さんに話しかけたいままがいい。3週間に1度の楽しみにして、またスタンプカードを貯めにこよう。今度は550円の指名料を払ってみようかな。きっとそれでも変わらない、寡黙な私たちの1時間。手と手が触れてるはずなのに、言葉が足りない1時間。すごく愛おしい、1時間。

生チョコタルトとミートグラタン

ジップロックに入れたマリーをめんぼうで叩き潰しながら、誰の顔を思い浮かべたら上手く潰せるかなって考えてた。殴りたいほど憎い相手ってみんなひとりはいるのかな。デスノート拾ったら一番最初に誰の名前書く?って質問、私は絶対父親って言うだろうな。板チョコを湯煎したいのにボウルと鍋の大きさが噛み合わなくてイライラする。好きの反対は無関心って腐るほど聞いたけど、パパは私に対して無関心だった。離婚してから会わせてほしいなんて言われたこと一度もないし、誕生日にLINEスタンプひとつ寄こして1万円振り込めばそれでいいと思ってる。生クリームとチョコが上手く混ざらなくてダマになる。愛情と憎しみは近くて遠い。私はパパに対して無関心になんてなれやしないけどこの憎さが愛なんてことあるわけがない。こんな気持ちもずっと、ダマみたいに消えてくれない。泣きながら養育費払ってくださいって電話した日に込み上げてきた殺意はきっと、パパが唯一私に教えてくれたことだね。ありがとう、おかげで誰のことも愛せないよ。オーブンにかけたグラタンのチーズが溶けてきた。丁寧にご飯を作って食べるようなあったかくて幸せな日には、早くパパが死なないかなあって心の底から思うんだ。できるだけ、痛くて辛い死に様でありますように。ナスがたっぷり入ったミートグラタンは、なんでかすごく美味しかった。