よくある話

いつも君は僕に急にカメラを向けてきてさ、何かと思えば変なインスタグラムのエフェクトを僕の顔につけて、キャッキャとはしゃいでるんだ。僕はそれにノリよく変顔するような気前のいい奴じゃなくてさ、嫌な顔してカメラから目を背けてたね。もっと構ってやればよかったな。煙草を吸う僕を撮ってはストーリーにあげて、ヤニカスグラムだなんてハイライトを作ってた。もう消えてんのかな。君が友達と行った韓国料理屋でパックもらったからあげるって、僕の部屋に勝手に置いていった、全部ハングルの文字で書かれた効能も分かりゃしないパッケージを眺めてる。使うわけないだろ。キッチンで煙草に火をつけながら、目に入る洗われた二人分の食器が妙に寂しい。君がいなくなってから2週間も経つっていうのに、僕は自炊すらしてないみたいだ。痛いほどに君の痕跡が残る部屋で、コンビニで買った飯を食って煙草を吸って寝るだけだった。風呂に入れば君が買った5個入りのアヒルがアホ面でお出迎えする。失ってから大切さに気づくようなアホ面の僕を嘲笑う。上がったあとに君がくれたパックをつけよう。インスタグラムのエフェクトで、変顔でもしてやろうかな。そう思ったけど、君が使ってた変なエフェクトの名前はひとつも分からなかった。